◇…「今、コロナの他に日本を蝕む病がもう1つある。それは “自分病” だ」と語るのは奥田知志・NPO法人抱僕(ほうぼく)理事長。このほど、大阪市企業人権推進協議会のオンライン講座で講演した際の1コマ。奥田氏は学生時代、釜ヶ崎でホームレスの人々に出会ったことをきかっけに、ホームレス支援を開始。抱僕ではこれまでに3,600人以上を自立に導いた。 ◇…奥田氏は自分病、すなわち自分さえ良ければいいという考え方が日本にまん延していると指摘する。「コロナ禍でトイレットペーパーが買占められたり、地域で医療従事者とその家族が排除されたりしたのはそれ表れ。自分だけの世界は他者なき世界、いわば孤立した世界だ。今、社会全体が孤立へと向かっている」と警鐘を鳴らす。 ◇…コロナ禍で生活困窮者が増加し、自立支援制度の新規相談数は以前の3倍以上、家賃支払いを助ける給付金の支給者は34倍に跳ね上がった。「経済的困窮が社会的孤立を招き、社会的孤立が経済的困窮を生む。この貧困のスパイラルを止めるには、一時的な支援ではなく、その人とつながり続ける『伴走型支援』が必要だ。人との関係の中で生きることで、生きる意欲が生まれる」 ◇…「かつて孤立や孤独を防ぐ役割は家族、地域、社会が担っていた。しかし社会の安定雇用がなくなり、それによって家庭も力を失った。地域とのつながりも希薄になっている」と指摘する。そうした中、どうやって孤立・孤独を防げば良いのか。抱樸では現在、北九州市で家族の機能を持った新たな形の地域共同体をつくる計画を進めている。「個別の支援も大事だが、そもそもホームレスにならない街、困った時に子どもが助けてと言える街、問題が起きるもっと手前で支え合える街、人間関係のなかで個人の物語がきちんと生まれる街をつくりたい」と意気込んでいる。 (日刊ケイザイ新聞の開催記事より)
